2012年12月27日木曜日

エンジニアの給料

日本に必要な改革は、ワークシェアリングと成果主義であろう。しかしうまく実現できている企業は少ない。これらを成功させるにはどのようにすれば良いであろうか?

日本とアメリカの給料体系

年功序列(現行の日本)のシステムでは派遣の給料は良くない。 日本では帰属性が重要とされ、長い期間、経営者にかしずいた人に多くお金が支払われるためと思われる。

アメリカでは、正社員だと社内規定などで給料が規定されてしまうので優秀な人材をスカウトしようとしたとき金額が問題になる。派遣ならば個別契約なので労働者に良い条件を提示することができる。 派遣は解雇されやすいとか、結果が出せなければ金額が少なくなってしまうというリスクがあるが、結果を出しさえすれば大幅に高い給料を得ることができるという夢がある。高い給料を出しても、それに見合う結果が出せるならば企業にメリットがあるという前向きな使い方だ。

ところが日本で、派遣はドカゲのしっぽ扱いされたり、正社員より給料が安い。それは帰属性が重要だという考え(派遣は正社員より劣った存在として扱われる)があるのと、派遣社員自身、ほんとうは正社員になりたいが正社員として雇ってくれる会社がないので仕方なく派遣をやっているという後ろ向きになってしまっているからかもしれない。そして結果を評価しないので初めに契約した金額から変化しないことが多い。

年功序列の問題点

年功序列では年齢で少しずつ給料を上げるようにすることで転職をしずらくする。つまりお金で人を縛っているわけだ。日本で年功序列が一般的なのは、給料が急激に変動したり、解雇されたりする不安を除きたいからというのもある。だからあえてお金で企業に縛られる選択をしている。成果を公平に評価するのは難しいのでこれをしなくても良いという意味と、給料が多いの少ないのという苦情が面倒だから(事なかれ主義)というのもある。

しかしお金で人を縛るにはかなりの多くのお金が必要だ。そして派遣が一般的になり、正社員の解雇もニュースになっている時代では、お金で人を縛っておくのが困難になりつつある。

年功序列は給料の金額が実情(その人の仕事が会社の利益に貢献した金額)に反映していない。まじめに働いて人間がバカをみる。夢がない。自分からスキルアップをしていこうとする気が起こらない。

結果を評価しないということは、適合していない職種であるのに本人が気が付かない。会社はそれだけムダに給料を払っていることになる。 経営者は金の生る木を持っているわけではなく、給料はその会社にいるみんなが稼いだお金を分配しているに過ぎない。会社トータルで利益がなければ、支払うことのできる金額も少なくなる。

職種を変えてもらう、あるいは転職した方が本人のためであり、会社のためであるのだがそれら機会が失われる。人間には個性があり、おとなになってから矯正しようと思っても難しい、だから適職というのは会社の競争力の点からも非常に重要だ。

みんなが同じ金額をもらえるのが平等だとする考えは、経済や技術の発展を鈍化させ、やる気うばう。このことは中国の状況をみればわかる。かつて中国は世界の先進国であり、日本も多くのことを学んだ。競争を否定してから経済や技術は急速に遅れていったが、近年、自由化すると急速に人々やる気を取り戻し、日本の産業に脅威をあたえるほどとなった。 このまま日本が改革を行わないのであれば近いうちに追い越されるであろう。

使用者と現場が同じ目線で話し合い、ルールを決める

日本企業が成果主義を実行しようとするとうまくいかないことが多い。それはなぜであろうか?

成果主義がうまく機能するためには、経営者、管理職を含めた全ての人間が平等に評価を受け、その成果に応じた給料をもらう必要がある。

日本では給料体系を決めるのは上の人間で自分たちは給料を削減したくないので、現場の人間だけ給料削減をするルールを作る。日本の成果主義では、労働者のやる気を出させるためではなく、単に人件費の削減を目的にしてしまっている。つまり、ワークシェアリングや成果主義が「搾取」あるいは「弱いものいじめ」の口実になってしまうことが問題だ。

もともと給料の少ない人間の給料をさらに削減するので生活ができなくなり、強い反発を生む。しかたなく元の年功序列に戻そうかという話になる。それが日本での成果主義がうまくいかない理由である。

会社が傾いてしまったのは今の今まで改革を行わなかった上の人間の責任が大きいはず。上の人間ほど削減率が大きくなるようなルールにすべき。 現在の経営状況を開示し、経営者層は何%削減、管理職層は何%削減、現場は何%削減と具体的な目標を設定し、それが全ての労働者に開示されること。改革を確実に行うため経営者は何を実行する、現場は何をするというような具体的な目標を決め、お互いにクロス・チェックを行う。

このルールは使用者側と現場の間で本音で話し合う必要がある。それには労働組合の力が使用者と対等に話せるぐらいである必要があるので労働組合がない場合は労働組合を作ること。どうしても条件が合わなければストライキをしても良い。日本では悪いイメージがあるが、ストライキは正当な労働者の権利である。納得がいかなければ思い切って転職するという選択肢もある。

ビジネスの環境は常に変化する。それに合わせルールを検討する。 半年、あるいは1年毎にポイントのルールは更新する必要があると思われる。

権限と責任、報酬は一体で与える

人事部/経営者などが中央集権的にポイントのルールを決めてしまうのには問題がある。各部署毎にその業務内容の特性、必要な工数などがある。特に設計/開発などの仕事では現場にいる人間であっても工数の計算は難しい。

たとえばポイントのルールを決めるのは各部署の部長と決めたとする。たしかに部長は現場の業務内容や作業工数を正しく把握できていないかもしれないし、個人的な主観で評価してしまうかもしれない。ただ部長自身の評価は、その部署全体の成果をもって決めるようになっていればよい。あまりに不公平な評価をすれば、部下の信頼を失い、その部署全体の売り上げは低下し、その部長は失脚するであろう。(ただし情報がオープンであること)

その部長のやりかたが気に入らなければ転属しても良い。(社内の人材流動化) 不評な部長は次第に一緒に仕事をしてくれる人間がいなくなり必然的に失脚する。 企業が利益を上げるためにはポジションの最適化が必要であろうし、部下の信頼を得るには誠意をもって話し合うということを身をもって体験してもらうことにも意義がある。

権限(雇用、解雇、金額)を与えたなら、その結果に対する責任、報酬(部長自身の給料、その部署の予算)は常に一体とする。

目先の金額だけでなく長期的な視野でポイントを決める

目先の利益だけを基準にポイントを決めると、ポイント低い仕事はみんなやりたがらなくなる。

たとえば電話サポートなどは直接の利益がでない。しかし「釣った魚にはエサをやらない的な仕事」をしていると顧客から反発を買い、次回からそのメーカーの製品を買ってもらえなくなる。場合によってはその件をwebにあるレビューに書かれてしまうかもしれない。直接数値化が難しい「顧客満足度」に対するポイントを考える必要がある。

たとえば雪の降った日に雪かきをするなどは直接会社の利益にはならない。しかし誰も雪かきをしないと近所の人々からは「あの会社の人は...」と言われてしまう。地域社会に貢献するとか、会社のイメージアップなどにもポイントが必要であろう。

自己申告で柔軟にポイントがもらえるようなシステムが良いであろう。

教育もポイントに含める

給料が沢山ほしいと思う人は、後輩が自分より多くもらうことを良しと思わない。それに教育とはコストがかかるものであるので自分のポイントを稼いだほうが良いと思うかもしれない。なので先輩が後輩に技術を教えないということが発生する。

新人教育などは具体的な教育目標などを設定し、実務と教育をはっきり分け、教育の工数(時間) が確実にとれるようにする。新技術などは社内勉強会で、情報の共有を行う。これらの講師となる人にポイントを与える。

各個人の自主的なOJTなどはやりにくくなるかもしれないが、基本的にプロの仕事は誰かに教えてもらうのではなく、自分で勉強する、あるいは先輩が作業しているのを見てまねるのが原則。手取り足取り教えてもらえるのは学生時代だけ。これからは自宅で勉強することも必要であろう。

自分で勉強しても分からなくて先輩に頭を下げて教えてもらう方法もある。ただ教えてもらえるか、もらえないかは相手による。

チームでのポイントを含める

個人の評価だけでポイントを決めてしまうと個人のポイント稼ぎに普請し、チームワークに問題が出るかもしれない。プロジェクトとしての評価も行い、プロジェクトの成果は、そのメンバーでの連帯責任とする。

部下を愛しているか?

成果主義では悪い評価をうけることがあり、それを部下が納得しないことがあるであろう。また会社のルールがあるのでしかたなく評価しただけでは、「否定された」という感情的な反発があるかもしれない。会社の競争力を高めるため、あるいは部下の能力を高めるために評価しているということが伝わる必要がある。

そうした時になぜ悪い評価になったのか説明することと、やり方が悪いのであればそのアドバイスが必要であろう。上司が目指している目標と部下が目指している目標がことなっていたのかもしれない。めざすものが正しく認識されているかの確認も必要だ。 上司は部下に対して親身になって相談にのり結果を出せるようにする。

納得がいかなければ他の部署、他の上司の元で働かせてみると納得させやすい。部下が努力してもどうしても結果を出せないのであれば職種があっていないかもしれない。「上司に問題があるのか」、「仕事があっていないのか」、「部下の能力不足か」本人が納得することが必要だ。

給料の相場

統計によると若い頃の給料は理系が高く、年をとるに従い文系の仕事の方が給料が高くなる。 そして一生にもらう給料は文系の方が高いと言われている。エンジニアは好きな仕事ができれば金額はあまり気にしない。そのため文系より給料が安くなってしまうのではないだろうか?

もっと声を上げても良いと思う。給料の相場を引き上げるには経営者にエンジニアの価値を認めてもらう必要がある。経営者と交渉する、積極的に転職することが必要であろう。とにかく経営者にしらしめることが重要なのだ。それは自分だけではなく、この業界にいるエンジニアにも影響を与える。

改革を実行せよ

金額が少なくなることに対して絶対的な反発を持つ人もいるであろう。年功序列では成果はなくても勤続年数が長ければ多額の給料をもらえる。それが「長いあいた会社のためにつくしてきたのにいきなり給料削減は理不尽だ」という感情的な反発である。

しかし給料が安くなるのは絶対いやだとダダをこねているだけでは前に進めない。選択、決断、改革を実行することが必要だ。

たとえば今後も給料は常に上昇するものと思って家を買った人がいるだろう。給料の削減でローンの支払い、生活費に困るかもしれない。その時は労働組合として先頭に立って経営者と交渉する。どうしても納得のいかない金額ならば、転職をしてもいい。

今後も土地の値段が低下すると思われるのであれば家を売却する必要があるかもしれない。土地の値段の推移を予測するのは困難であるが、負け(予測が外れた)が決まったのであれば早めに決済した方が損失は少なくてすむ。

せっかく買った家を売却しなければならないつらい気持ちはわかる。しかし家を買ったのは個人の判断であろう。であればその責任は家を買った人にある。きびしいようだが大人は自己責任だ。

ビジネスにはリスクはつき物であるはずなのだか、私たち日本人は奴隷になるかわりにリスクを経営者に背負ってもらう生き方をしていたので、自分からリスクのあることを実行できないでいる。これがグローバル社会で日本が負けている理由、日本経済が停滞している理由である。

お金よりも時間が重要な時代になってきた。「お金で人を縛る」のではなく、「優秀な人材が集まる会社」にする必要がある。それには会社の内側から見た価値を高める。今まではこの重要なリソースを会社が一方的に搾取することが容認されてきたが、これからは、労働者の幸福、個人の時間を大切にする必要がある。

それに必要な改革は、ワークシェアリングと成果主義であろう。正しいやり方であればワークシェアリングと成果主義は実現可能だ。そしてワークシェアリングや成果主義は企業の競争力を高め、労働者の幸福を体現するものでなければならない。