就職の審査の際に重視される項目に「帰属性」がある。この言葉は抽象的で意味が分かりづらい。その深淵にあるもの、なぜ帰属性を気にするのか考えてみたいと思う。
帰属性とは
辞書にはおおよそ次のような意味で書いてある。
属して、つき従うこと(所有物となること)。
就職時に言われる帰属性は多少ニュアンスが異なる。
従来 日本では、終身雇用と言って一度就職した会社に一生勤めるのが良いこととされてきた。しかし最近は、派遣という働き方が普及してきた。
職務履歴を見て、多くの会社を転々としている人間、あるいは1つの会社を退職し、次の会社までの期間が開いてしまって人間は「帰属性が低い」とみなされる。帰属性という言葉は、労働者に無理難題を強要しても転職しない性質(ある特定の企業に長い期間所属し続ける)という意味で使われてしまうようだ。
仕事とは辛いもの、直ぐに転職したりするのは我慢が足りない。あるいは、すぐに時給の高い会社に移動してしまうのは困るというわけだ。
企業側の都合
帰属性が重要ならば、派遣を使わないで正社員のみで仕事をすればよいはずだ。企業が派遣を使うにはいくつかの理由がある。
経営が良好な時には長く働いてほしいと思うが、会社が傾いてしまった時には正社員を守るために派遣を切ってしまいたいというのがある(俗に言うトカゲの尻尾切り)。 これは一般派遣より常駐(特定派遣、つまり派遣会社の正社員)が喜ばれることからも分かる。まあ正社員と言って実際は外注(二重派遣)、請負であったりするのだが...
派遣では忙しい時には労働者を増やし、仕事が少なくなれば解雇してしまうことができる。つまり人件費を節約できる。福利厚生の費用が正社員より派遣の方が少なくですむということもある。
また面接/筆記試験だけではその人間の能力を判断するのは困難であるので、使えない人間であったならば切ってしまいたいというのもあるかもしれない。(このニーズに合わせた紹介予定派遣というのもできている。初めは派遣として働き、何ヶ月か働かせて気に入ったら正社員にする)
労働者の都合
労働者が一般派遣を選択するには次のような理由がある。
派遣ではお金が必要な時に働き、貯蓄をして休むことができる。(残業なしの会社、1ヶ月ぐらいの長期休暇の取れる会社があると良いのであるが日本ではまず不可能だから)生活の保障がない代わりに自分の時間を持てるというメリットがある。正社員より派遣を選択する人は、自分の時間を大切にしているということができる。
家庭に病人がいる、本人の病気/障害、子育てで長時間働くことができない人は派遣やパートしか選択肢がないということもある。
日本の会社システムには改革が必要
日本の大手企業では、タイムカードを押すためだけに来ている人が沢山いる。
なぜららば日本の会社では長く会社に勤めること(帰属性)が重要で仕事の結果はあまり評価されないからだ。むしろ仕事で結果を出すとより多くの仕事が押し寄せ、かえって自分の時間がなくなる。とにかく言われたことだけをやり、仕事を増やすようなことは発言しない、それが賢いサラリーマンということになっている。
日本には「ことなかれ主義」が蔓延し、何か発言すると不利益な扱いを受ける。
終身雇用では、転職が困難であるので経営者の機嫌をそこねたら一巻の終わりという思いがある。だから不満があってもYESとだけ答える、または黙っておく。やがては経営者、管理職の人たちと現場の人間の間で建前でしか話せなくなる。
使用者側のごり押しが容認され、無理難題を押し付けられてもYESしか言うことができなくなるのは、現場の労働者は会社を変えるようなことはできないからだ。つまり使用者と現場の乖離が起こる。
最終的には、現場がやる気を失い、会社が競争力を失う。あるいは本当に必要な人間が転職してしまうかもしれない。
日本では会社に感謝をし、一生この会社につくして行きたいと思っている人間がどのぐらいいるであろうか? 労働者をお金で縛っても良い結果はでない。経営者、管理職、現場の人間それぞれ立場は違うが1つの会社を盛り上げていくためには本音で話し、みんながハッピーになれることを考えるべきだ。
アメリカなど海外では1ヶ月ぐらいの長期休暇のある会社がめずらしくない。 海外では条件の悪い会社では優秀な人材が転職してしまうので経営者だけの都合で労働者を酷使できないからだ。給料についても年齢や勤続年数で決めるのではなく、1人1人が交渉して給料が決まる。日本のように使用者側が一方的に決めるのではない。
労働者1人1人生き方は異なる。時間がほしい人、お金がほしい人、仕事が生きがいの人、どれが正しいというのではなく、それぞれに生き方があるので会社の都合で1つの型にはめないことが肝要だ。
すでに派遣切りが社会的な問題になっており、正社員になったとしても一生雇用が保障されているわけではない。今も大手企業の大量解雇がニュースになっている時代だ。終身雇用が終わったことを認識し、「帰属性に対するこだわり」を捨てるべき。
会社も労働者もハッピーになるためには
日本では終身雇用が長くまだ派遣の歴史が浅いので、メリット/デメリットを把握して、うまく運用することができていないように思う。
ではどうすれば良いか?
帰属性が重要だなどと言っていないで、会社の価値を正しく把握し、優秀な人材が集まる会社にすることを考えるべき。会社の内側からみた価値を改善するための改革が必要だ。
たとえば、残業にたよらなくても仕事ができるようにするとか、結果の出せた人間には1ヶ月ぐらいの長期休暇を許可するとか。それには情報の共有を行い、この仕事はだれしかできないということのないようにする。現在はITの技術が発達しているのでこれを有効に使い、会社のノウハウが継承されるようにする。
終身雇用では1つの企業、1つの部署に長期間 在職するので他の会社(他の部署)の仕事を仕方を知らず、比較することがなかった。多くの場所で仕事をするとさまざまやり方があることに気づき、必然的に比較される。
たとえば仕事のやりやすい/やりにくい場所であるか、ストレスの多い/少ない職場であるとか、金額が多い/少ないなどである。労働者からよりよい仕事のやり方、提案を受けた際に、きちんとコミュニケーションをとらず、改革をしたくないから、頭ごなしにそこの部署のやり方を強要していないだろうか? 個人的な主観を強要するのは部下に嫌われる原因となる。会社全体の利益を考えた判断、社内規定に即した指揮命令になっているかが重要である。
他の会社(他の部署)の仕事を仕方で良い方法は積極的に採用し、改革を行う。やり方を変えると不平がでるので改革をしないというのは「ことなかれ主義」である。
時給を年齢と勤続年数で決めてしまうのも「ことなかれ主義」からきている。 結果を評価するようにしないと、タイムカードだけ押して後は働かないという人間が増えてしまう。働かない人間が居づらい場所にするには結果の評価が必要なのではないだろうか? もちろん本人がやる気をなくしているのは会社や周りの人間にに問題があるかもしれないので本人と話しをしてやる気を取り戻すことがまず優先されると思うが...
労働者も自分自身の価値を正しく把握し、自身の能力を高めることを考えるべき。人材の流動化が盛んになれば、必然的に労働者が比較される。派遣では、契約で金額が決まるのでスキルアップ(職務経歴書上の)も必要だか、実務で結果を出すことも重要だ。今までは会社が教育してくれるのを待っていたがこれからは自宅で勉強をするということも必要になる。