2013年12月4日水曜日

半導体業界の憂鬱(ゆううつ)

以前は強い競争力を持っていたが最近は負けている業界に半導体業界がある。 日本の半導体業界の復活のために何が必要か考察してみたい。

なぜ負けているか

大きな原因は、目先の利益ばかり気にして基礎開発をしていないからだろう。 年功序列が人材流動化を妨げ、成果を把握しないことも要因の1つだ。 何が成果なのか分かっていないから個人的な好き嫌いで、成果のために必要な人間に不利な扱いをしたり、会社から与えられた役職で自分自身が利益を得ようとする。そして定年まで同じ会社で勤めるのがえらいとされ、エンジニアを大切にしない。これは「実務を行っている人間のやる気をいちじるしく奪う行為」である。

給料体系の改革

まず初めにやることは給料体系の改革だ。 設計・開発・営業の職種では、個人の成果が売り上げに影響するので成果主義にする。ここでの成果主義とは1年以内で成果が給料に反映するということ。

年齢や勤続年数で「3~4倍もの高給を支払うこと」をやめるのは絶対条件だ。 年功序列は、人材流動化をさまたげ、まじめにスキルアップをしている人のやる気をうばう。年功序列の世界は、いくら技術を極めたところで勤続年数と年齢で給料が決まってしまう。日本では仕事の役割分担があいまいなのでスキルの高い人間の所に、仕事が集中し過剰残業を要求される。勤続年数が長く、ゴマすりのうまい人間が役職と高給を手にする。まじめにスキルアップした人はバカをみる。実務をしている人間がやる気を出すには成果主義が必須である。

成果主義に切り替えると、年だけとっていて成果の出せない人間は給料が大幅に少なくなってしまう。利権を持っている人は反対するであろうが、「給料がほしければふさわしい成果を出せ」ということをはっきり言い、改革を実行する必要がある。年功序列ではこれから先、会社の存続はない。

職種によっては成果主義にし競争させても意味のない仕事もある。総務の仕事では、個人の成果が売り上げに直接関与しないので時給固定方式とする。(年齢や勤続年数で給料は変わらない、正社員/派遣/パートで同じ時給とする、職種で時給が決まる) そのような仕事では積極的に7Hの短時間労働を採用し、長時間労働のできない人、あるいは給料より時間を大切にする人に対して仕事を提供するようにする。そして男女差別、年齢による差別をしないで雇用する。それは社会に対する貢献だ。

いきなり給料が半分になってしまうと感情的になるであろうから、何年かかけて段階的に変えるようにする。もしも高給がほしいと言ったならば成果が求められる職種/部署に転属させる。現在、成果が求められる職種/部署にいて自分の時間がほしいと言ったならば、時給固定方式の部署に転属させる。つまり、個人が生き方を選択し、適性を考えポジションの最適化をする。年功序列では全員が同じにならなければならないとか、適性のない職種で働き続けていても疑問を持たなかった。効率的なビジネスのためには成果を計測し、個性に合わせ最適化が必要だ。

派遣についても成果が出せた人間には高給をだす。長期間会社に縛られた人間に高給を払うという慣例はやめる。会社とは仕事をする環境であり、成果を出せる場所であればどこでも良い。個人はスキルアップして、どこの会社でも仕事ができるようにする。

企業は、仕事のしやすい環境を準備し、成果がだせた人には派遣でも正社員でも高給をだす。それを会社の目標に設定しwebや求人情報で明確に提示する。本当に成果のだせる人の集まる企業、ぶらさがるだけの従業員にはいずらい会社にする。

日本は終身雇用が長かったので「絶対に会社は倒産してはならない」という気持ちが強すぎて思い切った対策ができない。失業率が高くなっているのは、たくさん残業させた方が儲かるという思想の元に派遣切りが行われているためであり、ワークシェアリングを推進し、労働者一人一人がスキルアップしていれば直ぐに次の会社で働ける。縛り/縛られる関係からの脱却こそが重要だ。

経営者、管理職の流動化

人材流動化は、現場の人間だけでなく、経営者や管理職にこそ必要だ。流動化はポストの最適化でもある。経営者や管理職のやっていることがオープンであること(評価を受けること)も必要であろう。

改革を行わない経営者、あるいは「残業時間を増やせば儲かる」といっているとか、会社を私物化してしまい成果を出せない経営者は交代するする必要がある。会社は、そこに勤める従業員(派遣やパートを含む)、株主、協力会社の社員全ての共有財産である。事業全体に関する重大な決定権を持つ経営者が成果の出せない人間であるのは、多くの人間を不幸にする。だから結果の出せる経営者、従業員の幸福を考える人に担当していただく。

最近は、外国人の経営者を迎える企業がニュースになっている。 改革を確実に実行できる人なら日本人でも良いはずなのだが、日本人はどうしても「ことなかれ主義」にどっぷり浸かっているのでなかなか思い切った改革ができないということと、終身雇用が多いのでさまざまな仕事の仕方があるということ知らない(海外での実務経験がない)ということであろう。グローバル化社会で戦っていくためには広い視野、海外での実務経験が必要なのかもしれない。

正社員の流動化、社内FA制度

何も派遣を使うだけが人材流動化ではない。 社内FA制度(Free Agent;社内人材流動化)などが鍵になりそうだ。プロジェクト毎に、やりたいと手を上げた人を、部署の境界をこえ集めてチームを作る。新しい人と仕事をするということは、考え方の相違で苦労することもあるが新しい刺激になる→やる気に効能がある。

法人が別であっても情報の共有、意思の統一ができていれば合併は必要ない。複数の会社の混合でプロジェクトを立ち上げるのも良い。会社が合併しても元xx会社の部署、元△△会社の部署と分かれてしまっていて、意思の統一ができていないのでは意味がない。特にプロジェクト単位でのまとまり、協調性が重要だ。 同じ会社内でも誰と誰がプロジェクトメンバーなのか明確でないと、やじうまや外野が干渉してしまってプロジェクトはスムーズに動かなくなる。

日本人は転属、他の部署の手伝いをいやがる。企業文化が大切だという人が多い。これらは積極的に話すことができないからであろう。 そのことは標準化しなければぐあいが悪い内容なのか?、単に自分と違う仕事の仕方をしている人がいるときもちが悪いだけか? 違っても支障のないことは気にしない。標準化すべきことは初めにプロジェクト・リーダーがはっきり伝えておく。そのようなルールを作る。プロジェクト・リーダーがリーダーシップを発揮すること。本音で話すことのできる文化を作っていくことが大切であろう。

注力すべき技術(基礎開発)

基礎開発をできないのは、日本のエンジニアが劣っているからだろうか? そんなことはない。 世界的な偉業を成し遂げた日本人もいるが、実際に働いている場所はアメリカだったりする。残念ながら日本で基礎研究のできる環境はほとんどない。民間企業は利益に還元されるまでの時間がかかる事業を敬遠している。日本のエンジニアは能力があるはずなのに、目先の利益のみにこだわり「ジリ貧」になっている。

具体的に注力すべき技術を提案したい。

1) CPUコアの開発、その他IPの開発

短い期間でLSIを開発しなければならないので多くのIPがあらかじめ用意されていることが必要であろう。CPUについては上位互換性を考えて開発していくことが重要。CPUの性能は、そのCPU固有の使い方で変わってくる。ベンチマークではアプリ実行時でのパフォーマンスはわからない。CPUの使いこなしのノウハウは社内に蓄えられているわけだから、それらリソースを無駄にしてはいけない。

CPU単体での性能が高くても、新たに開発環境を購入しなければならないとか、新しい開発環境の操作方法を覚えなくてはならないのであれば意味がない。教育/学習にもコストがかかるのでUIの上位互換性も重要。開発環境(ソフトウェアツール)の開発の使い勝手は、開発効率に関わるのでここもおろそかにしてはいけない。

※短い期間でLSIを開発しなければならないので英語のデーターシートしかないCPU/IPは採用することはできない。 (そのへんは外資系半導体メーカーに理解してほしい)

今までは多機能、高集積度を追及し、できるだけ売値を維持しようとしてきた。今デフレの時代に求められるのは低コストのマイコンである。時代が変わったことを認識し、低コストのマイコンに目をむけるべきだろう。低コストを実現するための製造設備、材料、工法など既成概念を捨てて見直す。

2) SoC(ASIC)

SoCは利益を出しづらくなっている。 もしもやるのならば特に大きなシステムに限定して仕事をすべきであろう。 大きなシステムの全体を把握し、システムの分割、全体の検証をするためには、エンジニアの育成が欠かせない。

LSIを開発する際、レイアウトはその性能に大きく関わる。 単に人海戦術でレイアウトをするのではなく、人を育てることも必要であろう。最近はゲート数が極めて大きいので自動配置配線を利用することが多いが、これらのツールも市販のものでは出せる性能に限界がある。独自の開発環境(ソフトウェアツール)の準備も必要かもしれない。

LSIの独自の製造設備なども差別化のため必要だ。日本では人件費が高いのでロボットによる、可能な限りの無人化や同一の製造設備でさまざまなLSIに対応できるような柔軟性のあるロボットによる製造とか。

3)アナログ&パワーや高周波技術

新材料の検討、新しいパッケージ構造の検討などが必要であろう。

4) IT関係 (ソフトウェア)

ソフトウェア関連をみても目先の利益だけにこだわっているのがわかる。 アプリケーション・ソフトの仕事がほとんとでOSやBIOS、データベース・エンジン、プログラミング言語、開発ツールなど多くの企業で共通に使う部分はほとんど仕事がない。これらはアメリカの企業が独占している。

アジアで開発するのは日本語の問題があるので海外への委託はしづらかった。 しかしアジアでも窓口になる人間に日本語の分かる担当者を置くとか、仕様書を日本語で作りますという企業は増えている。 アプリならアジア新興国でもできるようになった。 そうするとソフトウェアは人件費だけ、送付するのもメールで済むので輸送料がほとんど0円だ。 このような仕事はやがてアジアに取られてしまうだろう。 特定の顧客のみで使用する部分ではなく、共通で必要な技術(先端技術)に力をいれるべきだろう。

最近のスマホの動きを見ているとパソコンの二の舞となりそうでならない。初期のパソコンは、各メーカー独自のアーキテクチャーが使用されていて互換性がなかった。やがてアメリカ製のOSになり、ソフトウェアの互換性がとれるようになった。すると製品は単なる価格競争になり、パソコンのビジネスは利益のでないものとなった。、そして撤退する企業が相次ぎ、最終的に儲けたのはご存知ウィンテルだ。

以前ケイタイでは国産のCPU、国産のOSが利用されていた。スマホではほぼアメリカ製のCPUとOSになってきている。今はスマホのビジネスが快調のようだがやがて価格競争の時代になるであろう。

国産のCPUをつかっているとガラパゴスだという人がいる。独自のCPUをつかっていること自体は悪くない。ただ最終的に利益をうるのはコアとなる技術をもった企業である。日本が先端技術で負けていることが問題だ。日本も先端技術に注力すべきではないだろうか?

開発費

大手企業は資金力があるはずだから、業界全体に貢献する基礎開発を積極的に行うべきでだ。 しかし民間企業は目先の利益で動いてしまうので、10年先で勝つことができる技術、あるいは日本の業界全体で役に立つ技術はおろそかになりやすい。

日本とアメリカでの先端技術の行政の支援は1桁ぐらい違うと聞いている。(日本ではベンチャー企業が育ちにくい) 行政の支援も必要であろう。

その他やるべきこと

人の形をしたロボットが人間と共に働く時代が直ぐそこまで来ている。特に介護用ロボットが注目されている。 ロボットの社会への適合性、安全性についての規格は日本がリードして行うべきであろう。 多くのPC関係の規格はアメリカに先を越されてしまい、規格が英語しかない。 そのため日本のエンジニアにとって、開発の際の「非関税障壁」となっている。

ロボットに関する規格はいち早くJISで規格化し、それをISOに持っていく形にする。 ブームが発生してからあわてて開発を始めるのではなく10年先をみて仕事を始めるということだ。

グローバル化が進めば、商品を売るのに言語の壁がある。 マニュアルの翻訳、現地でのサポート強化が必要であろう。 特に電子部品など多くの機能が集積されている場合にはデーターシートの翻訳が必要だ。 ヘルプファイルやデータシートなどを現地(顧客がいる国)の言語に翻訳しないのは、植民地貿易と同じだ。 翻訳は現地の翻訳家にやらせる。翻訳の費用について、メーカーの負担、現地の総代理店の負担その割合を交渉すれば良い。

電子部品関連では、電話サポートは役に立たないことが多い。 サポート担当(FAE)の知識不足ですぐに回答が得られない、定時が終了すると留守番電話に切り替わってしまうなどとても困る。後で回答するといって数日で回答があればまだいい。場合のよっては数週間またされたり、ひどい場合は何回も催促しないと回答がない、忘れていたなんていう場合もある。

最近は海外の半導体を使わなければならないことが多いが、国内にいるFAEはおそらく短期の派遣を教育なしで使用している、あるいは転送電話でアジアの国々の人にやらせているのだろう。サポートは儲からない仕事であるからできるだけ安い人材ですませようということだと思う。

アメリカでは、FAQなどをデーターベース化することが多い。 1人の知識には限りがあるということと、人材流動化があたりまえなので会社にノウハウを残すということが重要だからだ。データーベースならば即時に検索が可能で、定時後のため回答が得られないということもない。日本でもサポート用データーベースの整備が必要だ。(日本語であることが必須)

特に半導体は複雑な機能を持つので十分な知識、早いレスポンスのあるサポートがなければ安心して採用することができない。メーカー側としてもサポートの情報は顧客のニーズを把握し、次の開発にフィードバックするために積極的に利用されるべきだ。

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